もう真夏…熱中症で死なないために知っておくべき病気と薬
毎年、梅雨明け直後から熱中症が急増するが、今年は特に警戒が必要だ。関東などでは異例な早さで梅雨明けし、2週間は必要とされる暑熱順化のための期間なしに、真夏へ突入したからだ。熱中症は乳幼児や高齢者が犠牲になりやすいといわれる。しかし、それ以外の人でも病気や薬で熱中症にかかりやすくなることは知っておいた方がいい。熱中症は体温の急上昇が多臓器不全を招き、死ぬこともある恐ろしい病気。油断は禁物だ。
■利尿剤を飲んでいる人も要注意
「人は皮膚表面で体熱を含んだ汗をかき、それが蒸発するときの気化熱で皮膚下の血液を冷やす。それが体内に循環することで体温を調節します。病気で熱中症になりやすいのは、汗が出ないか、その量が極端に少なくなる病気がある人。本人にその意識があればいいが、なければ危険です」
こう言うのは「北品川藤クリニック」(東京・北品川)の石原藤樹院長だ。
汗の量が著しく減る病気といえばシェーグレン症候群や全身性強皮症、アトピー性皮膚炎などの皮膚の病気が有名だ。汗腺が萎縮して汗が出にくくなる。治療で使われるステロイド外用薬は汗腺などの働きを抑制する作用がある。
「高血圧や心臓、腎臓の病気で利尿剤を飲んでいる人も注意しましょう。こういう人は医師からの指示で減塩しているはず。塩分を取り過ぎると、血液の浸透圧を一定に保つため血液量が増えて、血管に圧力が加わり、心臓や腎臓に負担がかかるからです」(石原院長)
治療に利尿剤を使うのは血液から水分を抜いて血液量を減らすため。日常的に“脱水状態”である以上、短時間でも炎天下や熱気がこもった部屋にいれば、すぐに汗が尽きてしまう。もともと塩分が少ないぶん、汗で体内から塩分が少しでも排出されれば、体内のミネラルバランスが崩れて発汗システムに障害が起きやすい。それも熱中症にかかりやすい原因となる。また、熱中症で血流が低下すると血液をろ過して尿をつくる腎臓の働きが弱まり、体内に有害物質がたまる。急性腎障害を起こすこともある。
「βブロッカーという薬を飲んでいる人も気をつけた方がいいでしょう。脈拍が速いタイプの高血圧や心不全、脈拍が急上昇する不整脈の人が対象の薬で、脈拍を遅くします。ところが体は体内に熱がこもると、熱を下げるために脈拍を速めて汗をかこうとします。この薬を飲んでいる人はうまく汗をかけないのです」(石原院長)
同じ降圧剤の「ARB」「ACE阻害薬」も「利尿剤」「βブロッカー」同様の注意が必要だ。
糖尿病の人も、そのリスクを忘れてはいけない。合併症の神経障害で暑さを感じにくくなっているうえ、自律神経が障害されて発汗機能が損なわれやすい。しかも多飲多尿で脱水症状が起きやすく、糖尿病の4割は高血圧でもある。
「糖尿病で気をつけたいのがSGLT2阻害薬です。この薬は血液中の余分な糖分を尿と一緒に放出するため、尿量が多くなり、脱水症状を起こしやすく、汗をかきにくくなるといわれています」(石原院長)
■下痢止めや頭痛薬も気をつけたい
他にも注意すべき病気や薬はある。薬剤師の青島周一氏が言う。
「風邪やお腹の調子が悪い人も熱中症には警戒が必要です。発熱や下痢で水分が失われやすいからです。このとき気をつけなければならないのは、『抗コリン作用』『抗ヒスタミン作用』の成分が入った総合感冒薬や下痢止め、鎮痛剤などの薬です。飲むと発汗作用が抑えられ、結果的に放熱作用が十分機能しなくなると考えられます」
実はこの「抗コリン作用」「抗ヒスタミン作用」の成分が入った薬は意外に多い。
乗り物の酔い止めの薬、鼻炎薬、胃腸薬、睡眠補助薬、花粉症の薬など、市販薬としても広く使われている。
「パーキンソン病、てんかん、認知症、うつ病なども熱中症リスクは高くなります。暑さが感じにくく対応が遅くなるうえ、体温調節機能をつかさどる自律神経に影響する薬を使うからです」(青島氏)
ちなみに、脱水症または熱中症により入院した患者6700人を解析した研究では、利尿薬、ACE阻害薬やARBなどの高血圧治療薬、抗凝固薬、抗うつ剤、向精神薬などの服用後に、脱水もしくは熱中症による入院が多かったと報告されている。
「特に利尿薬とACE阻害薬の併用でのリスクが高いという結果でした。もちろん、この研究報告はこうした薬剤が熱中症を誘発するのではなく、服用している人で熱中症による入院が多いということにすぎません。とはいえ、挙げられた薬剤の使用には注意が必要でしょう」
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