体のあちこちにカビが…「爪の水虫」放置はこんなに危険
水虫には、よく知られる足の指の間などにできる「足水虫(足白癬)」のほか、「爪水虫(爪白癬)」がある。埼玉医科大学皮膚科教授の常深祐一郎医師に話を聞いた。
爪水虫は、その名の通り、爪の水虫だ。
日本での足水虫は5人に1人、爪水虫は10人に1人。爪水虫は一般に想像されている以上に多い。問題は、「患者が爪水虫に気づいておらず治療に至っていない」「爪水虫に対して積極的に治療を行う医師が少なかった」ということだ。
「爪水虫は、水虫菌の巣のようなもの。いわばアリ塚です。足水虫は塗り薬で良くなっても、爪水虫が治っていなければ、アリ塚から水虫菌が菌糸を伸ばして足の皮膚に感染し、何度も足水虫を繰り返すのです」
「アリ塚」にいる水虫菌が害を及ぼすのは、足だけにとどまらない。
「背中やおしりに皮疹ができている体部白癬、いわゆるタムシの患者さんの足を見ると、ほとんどの場合、水虫菌がいる。水虫菌はカビ。爪に長年、水虫菌を飼っていると、お尻や背中など体のあちこちにカビが生えてきます」
爪水虫に至る流れはこうだ。水虫菌は主に足の角質に存在し、水虫菌がついた角質がはがれ落ちる。
この水虫菌がついた角質を、温泉やプール、スポーツジムなどではだしで踏み、自分の足に付着。足を洗えば水虫菌は落ちるが、付着したままでいると、半日くらいで感染。足水虫を発症する。
「この段階で完治させればいいのですが、薬の塗り残しがあって再発を繰り返す人が珍しくない。するとやがて爪の先端や側縁から水虫菌が爪の下に侵入し、増殖して爪水虫になるのです」
爪水虫は、体のあちこちにカビを生やす原因になるだけではない。
爪が白く厚く変形し、見た目が悪くなることに加え、体を支えてバランスを取るという足の爪本来の機能を果たせなくなる。痛くて歩けなくなったり、隣の足指に損傷を与える“凶器”になる。
糖尿病患者においてはより深刻で、足水虫、爪水虫は、ばい菌の侵入口となり、足の壊疽、切断を招くことにもなる。
では、爪水虫の治療はどうすればいいのか?
「足水虫であれば、市販の塗り薬でも正しく塗れば完治します。一方、爪水虫はごく軽症を除き、塗り薬では治りません。飲み薬の治療が必要です」
爪水虫の治療薬は、飲み薬が3種類(1997年、99年、2018年発売)と塗り薬2種類(2014年、16年発売)がある。自分の爪水虫には飲み薬か、塗り薬か……。この判断が非常に重要なのだが、これまでは、塗り薬が適さない爪水虫にも、塗り薬を使われているケースがかなりあった。
「14年に爪水虫にも有効な塗り薬が登場し、『塗ったら治る』という過大評価で、どの爪水虫にも塗り薬が出されるようになった。『爪水虫で一生懸命塗っているけど治らない』という患者さんが増えたのです」
その背景には、医師が副作用を過剰に心配して、積極的に飲み薬の治療を行おうとしてこなかったという事情がある。
「しかし医師の管理のもとに処方すれば、たとえ高齢者でも、たいていの人は飲み薬でも副作用の心配がないことが分かっています。感染症である水虫は完治させないと意味がない。感染拡大・再発を防ぐために、正しい治療が必要」
塗り薬で完治可能なのは、爪の先端だけが濁っている初期の軽症例、または爪の表面だけが濁っている特殊なタイプ。それ以外の大部分は飲み薬になる。
あなたの爪水虫が、家族中の水虫の「元」になっているかもしれない。
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