全国から注目、小さな町のひきこもり支援
世界遺産・白神山地の南の麓、秋田県北部にある藤里町は人口3448人(2017年4月現在)、高齢化率は45%を超える。冬は雪に閉ざされる小さな町の社会福祉協議会のひきこもり支援が全国から注目を集めている。
2010年、地域福祉の拠点として「こみっと」を開設した。介護予防の機能訓練室、食事サービスの調理室、カラオケや囲碁将棋を楽しむサークル室、婦人会や老人会など各種団体の共同事務所…。社協の菊池まゆみ会長(62)は「ひきこもりとか高齢者とか特定せず、福祉サービスが必要な人に集まってもらう場所にしたかった」。いろいろな人が集うことで、ひきこもりに対する偏見を和らげる狙いもあった。
開設準備と並行し、1年半かけて、職員らと町内を戸別訪問し「こみっと」を周知した。すると予想もしない現実が見えてきた。18~55歳で、不就労期間が長く、家族以外との交流や外出がほとんどないひきこもりが113人いた。町内の同年齢人口の実に8・7%に上り、半数が40歳以上だった。
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4年半、東京で働いた後に秋田県に戻り、祖母の介護などで約12年間ひきこもりがちだった小玉栄さん(48)は現在、社協のパート職員として全国から来る視察研修などに対応している。「高望みして仕事が見つからなかった。ちょっとつまずいてずっと(12年間)きてしまったって感じ。心の病という問題でもなかった」と振り返る。
当時社協の事務局長だった菊池会長が2度家に来て、こみっとの情報やヘルパー養成講座のチラシを置いていった。ヘルパー養成講座は、求職者支援事業として、受講生に月々給付金が支給された。「スキルを身に付けてお金がもらえるのなら」と、小玉さんは講座に参加し、ヘルパー2級の資格を取った。
小玉さん同様、戸別訪問により受講を決めたのは50人に上った。
小玉さんは「ひきこもりの人には情報を与え続けることが重要。1度や2度でやめると、見捨てられたと受け取る。情報を携えた訪問を続けることで、相手はちょっと外に出てみようかとなる。仕事をしたいと思っているひきこもりの人は結構多い」と話す。
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こみっとで活動を始めた小玉さんはウエーターや調理、そば打ちなどを担当。12年には特産のマイタケと卵、生クリームを使って焼き上げる「キッシュ」の商品化に関わった。初年度の売り上げは450万円。菊池会長は「これでこみっとを見る町民の目が変わった。ひきこもりが集まる場所から若者が頑張っている場所になった」と話す。
10年以降の5年間で、113人のひきこもりのうち、86人が支援により何らかの仕事に就き自立した。菊池会長は「今はもう(ひきこもりは)10人未満」と笑う。
昨年6月には町民を対象に、ボランティアを含めいろいろな仕事を紹介する登録制度「プラチナバンク」を創設した。希望する収入や仕事時間、経験などに合わせて、社協がマッチングする。300人以上が登録しており、社協が運営するレストランや、高齢者施設の清掃、高齢者宅の除雪作業など幅広い仕事を用意している。
支援を始めて8年。菊池会長は「ひきこもりにはそれぞれ理由があり、決して能力が低いわけではない。彼らを含めたみんなで支え合うまちづくりはきっと可能」と力を込める。
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